「苗字」の淘汰

 「立山 太郎」と「早月 清子」が結婚する場合、市役所に「婚姻届」を提出します。いや、むしろ、婚姻届を提出し受理されることで初めてふたりが結婚したということになります。
 婚姻届を記入・提出したことがある方はご存知だと思いますが、その中には「どちらの氏(姓=苗字)を名乗るか」ということを記入する欄があります。男女平等が叫ばれる現代においても、男性側の姓を名乗ることがまだ圧倒的に多いので、このふたりに当てはめると、婚姻届が受理されることで夫となる男性側の姓を名乗り「立山 太郎」を筆頭者とする新戸籍が作られ、そのメンバーとして妻となる清子も記載されるということになるわけですが、その際に「早月 清子」は苗字を変え「立山 清子」となります。

 世の中には数多の「苗字」が存在しています。鈴木・佐藤・田中・山本…など全国的にもメジャーな苗字は、この先100年・1,000年と経ってもたぶん存続しているでしょう。世の中にこの名字の人が多い分、この氏の戸籍が新しく作られる確率が高いからです。一方で全国で数軒・数十軒だけといったマイナーな苗字は、子がいない・娘が嫁いで相手方の苗字になる・子(跡継ぎ)が死亡した…など様々な理由で断絶する確率が高いと言えます。
 現行の民法どおり「結婚によってどちらかの苗字になる」ということを、この先100年・1,000年と続けていくと、苗字は次第に淘汰されマイナー苗字は徐々に消えていくということが想像できます。かつて日本中に数多く存在した「村」などが幾度かの合併によってその村名が淘汰されたように。地域で有力(規模の大きい)な市町村の名前が残り、そうではない村名は消えていったのです。地名であれば消えた村名も合併後の地域名として残るケースも多いのですが、人の苗字となれば選択されなかった方は復姓でもしない限り完全に消滅してしまいます。
 現在、日本にはマイナー苗字も含めて30万種近い苗字が存在しているらしいですが、そのうち全国で100軒以下しかない超マイナー苗字(絶滅危惧種)は約1万種だそうです。
 いつか数十種類に淘汰されるということはないにしても、これらの超マイナー苗字の消滅は数年・数十年の内に現実に起こり得る事なのです。(いや、すでに消滅した苗字もあるでしょう。)

 そこで、非現実的な提案として、「苗字を作るのOK」の法律制定を検討してみてはいかがでしょうか。
 婚姻届が受理されると、そのふたりはこれまでいたそれぞれの親の戸籍を離脱し、新たに自分たちのどちらかが筆頭者となる新しい戸籍が編成されます。(再婚などの場合はこの通りではない場合があります)
 先に登場した立山太郎・早月清子両人で言えば、選択できる苗字は「立山」か「早月」の二択です。ここにもともとある「立」「山」「早」「月」の4字を使って「月山」や「立月」などの苗字を作ることもOKというように。そうすれば消滅していく苗字がある一方で新たに登場する苗字も出てきます。またマイナーなものに価値を感じる人も一定数いますので、マイナー苗字が登場する確率が非常に高いと言えるでしょう。
 ただ、無制限に自由に苗字を作っていいということにすると、単に奇をてらった無秩序なものが現れることが考えられるので、以下のルールも同時に提案します。
 ●戸籍筆頭者は苗字云々とは切り離して任意に決めることができ、苗字は「もともとの苗  字のいずれか」または「新たに作成した苗字」のうち任意に選択できる
 ●新苗字作成の場合は、使用できる文字はもともとふたりの苗字にあった文字のみ
 ●「長谷川」など、3文字の人が絡む場合は3文字までなど、文字数制限を設ける
 ●読みは、常用漢字としての読みおよびもともとの読みのみ(特別な場合は家庭裁判所の許  可が必要)
 ●新苗字を作るのは、一生で1回のみ(再婚の場合もどちらかが過去に一度作成している場  合は、再度作成はできない)
 …以上のようなルールを設ければ、無秩序に奇妙な苗字が乱立することをある程度防げると思います。

 「苗字」という日本の文化を、そしてその多様性を末永く存続させていくため、議論してみるのもいいのではないでしょうか。

2021年01月13日